夜が訪れ、静寂が街を包むころ、ひとりの少女が月の下に立つ。
手に楽器はない。ただ、その胸の奥に秘めた想いだけが、彼女の全てだった。
澄んだ夜空に浮かぶ銀の月。
誰もいない湖畔で、少女はそっと目を閉じる。
声に出さず、ただ心の中で、ひとつひとつ言葉を紡ぐ。
それは、音も旋律も持たない詩。
忘れられた祈り。
交わすことのなかった言葉。
胸の奥にしまい込んだ名前。
誰にも届かぬはずのその詩は、やがて月の光に溶けていく。
誰の耳にも届かず、ただ夜風だけが、その無言の詩をそっと運ぶ。
けれど月は、いつもそこにいる。
何も語らず、何も返さず、ただ静かに夜空に浮かび続ける。
それでも、少女は知っている。
"この詩は、きっと月に届いている"と。
『月の詩』
それは音もなく、声もなく、それでも確かに存在する、心の詩。
この物語は、あなたの胸にも、そっと寄り添うかもしれない。
